第54代理事長松田裕紀メッセージ

跳躍

ゆく河の流れは絶えずして、しかももとの水にあらず

 これは私が学生の頃に学んだ「方丈記」の冒頭に記されている一節です。まだ10代であった私が、殆ど変わらぬ日常と映っていた一日一日、一瞬一瞬の素晴らしさと大切さに気付き始めることとなったきっかけです。留まることなく流れる河の水の分子を一人の人間と考えた場合、行動を共にする仲間は流れとともに変化し、時に激しく、困難にぶつかりながらも一つの流れとなって力強く乗り越え、時に穏やかに、手を取り合い優しく包み込む様に流れます。しかしその困難や一つの流れとなり得た仲間、時の状況を同じくすることの決してない様は、人生と重ねることができます。
 立川JCに入会し、少しずつ学びと経験を積み重ね、その活動に本気で取り組むようになり始めた頃、この一節が自然と甦ってきました。これはJCが多種多様なメンバーで構成され、単年度制という組織形態の中で、掲げた目的の達成に向かって調和を図り、単なる要素の総和を超えた、まさに一つの大きな流れとなってその一年を駆け抜け、地域や自己の成長と進化を見出す運動体であるからこそであり、同時にこれまでの奇跡的な出会いと貴重な機会の連続を感じることで、全てに感謝することの大切さに気付かされました。

現在とは、即ち過去の集大成の連続である

 今の自分を形づくるものとは一体何であるのかを考えたとき、どれほどの恩恵の中で生かされているのかを思い知ります。これまでの私の人生のみならず、この世の全ての過去の事象が一分一秒たりとて違えば今の私はありません。すべては「過去の歴史」あってこそであり、その時代を生きた先人たちが、悠久の時間の中で未来を想い「知識や知恵」「行動と実践」を受け継ぎ進化させ、それを幾世代にも渡り繰り返してきたことで築かれた、歴史の先端となる一つの時代に、我々が存在しているに過ぎないということです。普段当たり前と感じてしまいがちな、便利な施設や子供達の遊ぶ公園、安全性の高い水や食料でさえも、すべてが数えきれないほど多くの先人達の、計り知れない地道な行動あってこその「現在」です。
 立川JCもまた、1965年に東京で2番目のJCとして誕生して以来、53年間に亘り常にこの地域や国、そして子供達の未来を想い、多くの地域の方々と協同し運動してきた長い「歴史」があります。その紡がれた「歴史」の上に立たせてもらうことで受けてきた恩恵は計り知れません。
「まちとは人」であるのと同様「立川JCとはメンバー」であり、組織名は集団を指す名称に過ぎません。長き「歴史」からなる志や誇り、そして英知や勇気、情熱はメンバーに息衝いているものです。そうであるならば、我々が真に「為すべきこと」とは、この手に委ねられた歴史に感謝し、未来に思いを馳せ、我々もまた背を伸ばしてこれに臨み、今こそ青年らしく妥協することなくその力を発揮し、次世代へと紡ぐ挑戦者であり続けることです。

和を以って貴しと為し、忤ふること無きを宗とせよ(十七条憲法)

 日本人には、古来より受け継がれてきたものの考え方として「和」の精神が根付いています。「和」とは、個人を重視せず集団における秩序や礼儀を重んじることだと言われています。しかしそれに対し「個性を無くす」「自己表現が下手になる」などと言われてしまうこともありますが、先の一文はそうではないことを教えてくれます。それは、それぞれの力を発揮した上で調和を図る、ということです。個性を発揮し、自分の考えはきちんと伝える。しかし決して偏らず、こだわらず、互いに和らぎ睦まじく話し合い調和を図ることによって、そこで得た合意はおのずから道理にかない、その集団はまさに一つの大きな流れと化し、単なる個の集合体ではなく相乗による最大の効果を生み出すことで、何事でも成し遂げられることに繋がるのです。事実、第二次世界大戦後の日本は、この「和」を以って互いに手を取り合うことで、めまぐるしい発展を遂げたと言われており、今や日本人特有のこの精神は、世界中から評価されています。
 しかし一方では昨今、日本人の「和」の精神は時代の経過とともに、本来のものとは少し違ってきているように感じます。今こそ、一人でも多くの日本人が、その身に息衝き世界中から賞賛される、この素晴らしき「和」の精神を改めて見つめなおし、理解を深める機会創出に取り組み、「和」を以って行動する人で溢れる社会を目指す必要があります。

 リベラル・ナショナリズムという言葉があります。相反する二つの概念を結合した言葉ではありますが、国における多文化共生を包含する考え方の一つとして注目されてきています。リベラリストが価値を置く自由や人権、平等といったものを現実社会で担保するためには、その前提として国家という運命共同体意識、すなわちナショナリズムがなければ実現し、維持しえないというこの考え方は、まさに「和」の精神と重ねることができるものだと言えます。
 さらには、国を超えて地球全体を一共同体として考えるという「Globalism」が世界中で浸透しつつあり、地球規模の視野で課題を設定し人類全体で解決していくことに向けた取り組みが実践されています。この取り組みの基となる考え方は、我々JCの掲げる「明るい豊かな社会の実現」という普遍の理念に繋がるものであり、地域で運動展開する我々も、その浸透に本気で取り組んでいく必要があります。そのためには文化風習や生い立ち、考え方の違いを理解し受容する機会の創出に地域のあらゆる人々と協同して取り組み、地球を共有する地球人の一人であり、日本人としての国際社会の一員であるという意識を地域全体に醸成していかなければなりません。そしてそこにリベラル・ナショナリズムと日本人ならではの「和」を以って臨み、融合を図ることができれば、その先にはあらゆる人種や宗教、思想の対立を超えた真の「Globalism」があるのです。
 2020年東京オリンピック・パラリンピックを2年後に控え、東京には世界中からの注目と人が集まることでしょう。しかし果たしてこれを絶好の機会として地域社会の発展に最大限繋げられる準備が整っているかどうかというと疑問が残ります。開催年に向け必然的に機運は高まっていくでしょうし、それに引き寄せられるように様々な準備はなされていくのだと思います。しかし流れに任せていくのではなく、この機会を加速牽引年度という一つの契機として捉え、今だからこそ地域のあらゆる人々が能動的にそこに向かい、先を見据え、開催を機に一気に加速し、世界に開かれた「Globalism」の浸透した国際的なまちへと発展するための準備を「まちぐるみ」で始めるべく、立川JCなればこその運動を進めていきます。

 2013年7月、国連本部においてある少女の演説がありました。それは「ペンは剣よりも強し」を実体験から主張する、平和な日本に生きる私にとっては、世界で起きている悲惨な現実と、それを解決する最大の糸口が教育であるという、教育の力の凄さと大切さを強く心に刻まれることとなるものでした。子供達はまるでスポンジのようにあらゆるものを吸収していく分、何色にも染まる可能性があります。だからこそ地域の皆で、次世代を担っていくことになる彼らの輝ける未来のために見守ることはもちろん、受け継いできた「歴史」を注ぎ込み、最善の成長の機会創出に挑戦し続けなければなりません。なぜなら、我々もまたその様にしてきてくれた先人のお陰で今があるからであり、これこそが我々の最大の使命であり責任であるからです。
 私は教育に従事している者ではないため、今の教育のあり方がどうなのかを語ることはできません。しかし確信して言えることは、国にとっても地域にとっても大切な宝である子供達は「まちぐるみ」で育んでいくべきであるということです。自己を肯定する心、すなわち「自分を愛せる心」を育み、様々な挑戦を通し強さと優しさをそなえることで、家族や友達、そして地域を愛し、将来に大きな夢を描ける心を育成する機会に「まちぐるみ」で取り組むための事業を展開していきます。

 地域や子供達の明るい未来に向けた事業展開も、JC運動を地域に伝播させるための事業も、情報を行き渡らせ、その人の心を動かす発信力がなければ本来の効果を発揮できません。伝えたいことをしっかりと整理し、人の心に響く枠に囚われない発想で自身が想いを持って臨む必要があります。
 今の世の中にはSNSを始め様々なメディアが溢れています。目的や対象に合わせてあらゆるメディアを戦略的、継続的に駆使することで、その効果は乗数的に上がっていきます。そして忘れてならないのは、人との繋がりによる発信です。いつの時代においても想いの届いた人で繋ぐ発信は最高の力を持ちます。これは言葉だけでは伝わらないある種の気迫が宿るからであり、それは文章にも滲み出てくるものです。地域の人や行政、マスメディアの人々との関係を深化させ、顔の見える人間関係による発信にも尽力することで、JC運動をより広く、より心まで届かせることにこだわり実践していきます。

 ここ数年で8割にも及ぶメンバーの世代交代がなされた立川JCにおいて、JC運動の「本質」とそ「根拠」を充分に継承しきれていない現状があると感じます。JCには多種多様な成長の機会があります。しかしどれだけの環境や機会がそこにあろうとも、自らがその機会を掴みにいかなければなりません。本気になって臨むことで得られるものは数多く、本気で臨まなければ得られないものがほとんどです。本気で臨むには、物事の「本質」をその「根拠」とともに理解することで湧き上がる、心からの「納得」と「想い」が必要です。そしてそこから生まれてくるものこそが「心で動く」という誠の本気なのです。
 誰かの、何かの為のその行動を掘り下げてみれば、根底では必ず自身の「力」の底上げが成されているはずです。必要とされる「変化」を恐れず、すべてに真摯に勇気と情熱をもって本気で臨み、為したことに信じる心を持てれば、その先に待つものは「進化」です。JC運動の本質を理解し、真に「為すべきこと」に対し「心で動く」ことが、自身の「進化」を促し、人としての大きな成長に繋がるのです。個の「進化」はそのまま立川JCの、地域の「進化」に繋がります。
 地域の未来を本気で考え「心で動く」人が一人でも多くなれば、それは地域やそこに住む人々にとって希望の波紋となっていくでしょう。会員拡大の真髄はまさにそこにあります。単に会員数やマンパワーの増強ということではなく、一本のろうそくでは明かりが足りなくとも、ろうそくが増えていけば、やがて太陽の如くこの地域を、社会を、そして世界を燦々と照らすことになるのです。

生きるうえで最も偉大な栄光は、決して転ばないことにあるのではない転ぶたびに起き上がり続けることにある(元南アフリカ大統領 ネルソン・マンデラ)

 立川JCはこれまで53年間に渡り、地域のリーダー足り得る人材の育成に取り組んできました。今では多くの先輩方が地域の先頭に立って牽引してくれています。そして今、我々は先輩方が築いた歴史の示す軌跡を辿り、日々、志を遂げるべく邁進しています。我々が先輩方の導きによって成長してきたのであれば、我々もまた自己の成長を図りながら、為してきたことの成功も失敗も一つの経験と捉え、その経験を次世代へと全力で紡いでいかなければなりません。
 何か行動を起こし、全力でやってもうまくいかない時はきっとあります。しかしそれも達成に至るまでに必要な過程の一つでしかありません。また、大きく見える困難が待ち受けるものには、達成された時まで不可能だと言う人が時に多かったりするものです。しかし失敗を恐れず、どうせできるわけがないと決めつけず、諦めず、高き志と情熱、一歩踏み出す勇気を携え、すべてを糧として、きっとできると信じて疑わず進み続ければ、それは多くの協力者とともに大いなる力を生み出し、必ずや起こした行動の目的達成に繋がっていくと信じています。そしてこのような「あり方」こそが、多くの人が一丸となって、より良き社会やより輝く次世代の創造に取り組む理想形の一つとして「最も偉大な栄光」と表された所以ではないでしょうか。
「やり方」とは手法を指す言葉ですが、「あり方」とは、その前提にあるものです。「あるべき姿(勢)」とも言い換えられるこの言葉は、すべてに対しての根底と言えるものです。人としての、親としての、立川JCとしての、そしてJAYCEEとしての「あり方」。人はどうしても「やり方」の方に目を向けてしまいがちですが、それは無数に存在します。無数に存在するからこそ、掲げた志から逸れないためには「あり方」に重きを置き「どうあるべきか」「どうなりたいか」をはじめの一歩としなければなりません。「あり方」があって「やり方」なのです。我々の「あり方」が次世代という新たな時代の可能性を直接左右します。これまでの「歴史」に感謝することで、その責任を感じ「為すべきことを見極め、あり方を重んじる心で動くJAYCEE」に溢れた立川JCを目指して邁進していきます。

本当のリーダーとは、多くの事柄を成し遂げる人ではなく、自分を遥かに越えるような人材を残す人だと思う(元ウルグアイ大統領 ホセ・ムヒカ)

 人生には限りがあります。限られた時間の中でより多くの経験を蓄積するには、自身が実践することはもちろん、多くの出会いと交流の中から生まれる経験の引き継ぎが重要になります。私はそれを「人の人生経験の一部を頂く」と表現していますが、そうして脈々と受け継がれた過去の連続で「歴史」は創られてきました。まず己が本気になって行動を起こし、多くの人との交流から学びを深め、昨日よりも今日、今日よりも明日が少しでもよくなるよう行動していくことが、家族や地域のみならず、自身をも豊かにしていくのです。
「新日本の再建は我々青年の仕事である」というように、我々青年が為すべきことは無数に存在します。やがて「歴史」と呼ばれる一つの時代を次世代へと大きな希望とともに紡ぐべく、家族のため、地域のため、そして自分のために、志高く己を律し、本気になって生きていこう。なぜならこの時代の担い手として次世代へと紡いでいくのは、紛れもなく我々であるのだから。

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