理事長所信

第53代理事長 岡部 栄一
スローガン

■はじめに

 自分の存在意義は何であるのか、ふと考える時があります。自分が今の時代になぜ生を享け、この時代を生きているのか。誰かに生かされているのではないかという感覚に陥る時があります。人間は誰しも生まれてくる意味があり、かけがえのない人生の中で行うべき「使命」があると考えます。「使命」とは言葉の通り、「命を使う」と書きます。自分の存在意義を考える時、限りある人生の中で命を使って行うべきことは何であるのかを、もう一人の自分と向き合い自問自答を重ねます。「使命」とは、自己の利益を考える「自利」の精神のみではなく、他者のことにも想いを馳せる「利他」の精神を併せ持つ考えの中にあります。「自利」と「利他」の精神こそが、青年会議所(JC=Junior Chamber)が過去より連綿と紡いできた、JC3信条にあるTraining「個人の修練」Service「社会への奉仕」Friendship「世界との友情」から自然と培われるものです。

 1945年8月に終戦を迎えた第2次世界大戦時を生きた、我々と同じ世代の青年は何を考え、その時代を生き抜こうとしたのでしょうか。また、生き抜くことが許されなかった青年の御霊は何を考え、どのような未来を見据えていたのでしょうか。私は、幼少期に祖父母から戦時中のことを聞いて育ちました。小学生の私には、当時の想像が今ほどできませんでしたが、辛く厳しい時代であったということは話の中から感じたことを覚えています。その後、中学生の時に訪れた、広島平和記念資料館での衝撃は今でも鮮明に脳裏に焼き付いています。その時代を生きていた多くの人たちが想い描いていた輝く未来が、一瞬で失われた事実を私はそこで目の当たりにしました。今の時代をどう捉えるのかは千差万別ですが、当時と比較すると我々の人生は計り知れないほど豊かになっているのではないでしょうか。だからこそ、この一瞬を生きる青年である我々は、先祖代々受け継がれてきたこの地域の未来を、日本の未来を、そして地球の未来を見据えてJC宣言にもあるように率先して行動することを宣言し、行動を起こさなければならないのです。

■和の心

 我々日本人のアイデンティティの中に連綿と受け継がれているもの、それが「和の心」です。「和の心」を定義付けるのであれば、個人を重視するのではなく、集団で行動することの中で秩序や規律、礼儀を重んじる精神を持つ心を言います。我々日本人は、古来より日本特有の協調性を重んじ、集団の中で目に見えない相手の心を読み取り、相手に想いを馳せることで波長を合わせ、争うことなく物事を円滑に進め調和を図ってきました。そのような「和の心」を持った日本人の行動は、2011年の東日本大震災時や、2016年熊本地震時のような有事の時に全世界から大きく評価され、日本人が持つこのアイデンティティに改めて気づかされた人も多かったのではないでしょうか。

 時にこの協調性が個性を失わせ、ビジネスの世界においては日本の国際競争力を弱めていると揶揄されることもあります。しかしながら、個性というものは協調性が失わせているものではありません。何故なら人間は生まれながらに個性があり、長所短所がある中でお互いにその個性を認め合った上で、相手の意見を尊重し相互に理解しようとしているからです。私は、この「和の心」が満ち溢れた人材が地域を創造することで、今世界で起こっている多くの紛争はなくなると考えます。この国に生を享けたのならば、日本人のアイデンティティである「和の心」という長所を最大限に生かし、我々の愛する地域を、この国をより良い形に変えていこうではありませんか。「和の心」を持つことこそが、青年会議所の理念である「明るい豊かな社会の実現」「恒久的世界平和」につながるのです。

■Globalism

 「Globalism」のGlobeは地球という意味を指し「Globalism」とは地球規模で物事を考えることを言います。インターネットによる情報伝達技術の発達、ビジネスの国際化や、増加する海外旅行や観光による移動手段の発達などにより、「Globalism」という言葉が使われるようになりました。2020年東京オリンピック・パラリンピックの開催が決定している中、改めて「Globalism」について考える必要があります。物事を地球規模で考えることで、人々の活動が国境を越え地球規模で交わるようになり、目に見えない自国の良さを知ることができます。例えば、日本の世界に誇る技術力や文化については、世界から高い評価を受けています。比べるものがあるからこそ、その長所が最大限輝きを放つのです。ニューヨークで起こった2001年9月11日の世界同時テロからすでに16年が経とうとしています。世界では、罪もない人々が身勝手極まりないテロ行為によって尊い命を落としており、日本人にも多くの犠牲者が出ています。決して許すことのできない、「他人ごと」として考えてはならない問題です。私は、日本青年会議所主催の少年少女国連大使事業とともに行われている2016 JCI Global Partnership Summitに参加しました。ここでは、ニューヨークにある国連本部で、小学4年生から中学生までの生徒とともに、世界が直面している17つの持続可能な開発目標(UNSDGs)について、世界各国から集まった仲間と議論し、最終的に自分達が考える問題解決策を提示し、行動に移すことを誓いました。日本におけるグローバル化は、少子高齢化や労働生産人口の減少の中で必ず考えていかなければならない問題であり、今まさに直面している課題です。まずは、我々が価値観の違いを受け入れる相互理解や、世界的に起こっていることに対しての「無知」から「有知」へ、「他人ごと」から「自分ごと」へと意識を変えていかなければなりません。そして、東京オリンピック・パラリンピックという未来を見据え、その考えを伝播することで、「Globalism」の考えを持った人材による地域の創造につながるのです。

■JC運動論の展開

 青年会議所運動は第2次世界大戦終結から4年後の1949年9月より「新日本の再建は我々青年の使命である」という先駆けた創始の想いから、未来の日本を「自分ごと」として捉えた1人の青年の行動から始まりました。この創始の精神から青年会議所で脈々と受け継がれてきたもの、それはすべてを「自分ごと」として捉え行動に移すこと、その行動で地域に共感を与え伝播させていくことです。創始の時から青年会議所は活動を行っているのではなく、市民の意識を変革させる運動を続けています。例えば、まちにごみが落ちていた時に、ただごみを拾う団体なのではなく、ごみを捨てない意識に市民を変革させる団体なのです。この活動と運動の違いを全会員が意識するべく「JC運動論」を展開します。

 地域に根差した運動を展開する我々は、触れ合う多くの市民に、自分達の地域を「自分ごと」として捉えてもらう必要があります。地域愛を持った市民を1人でも多く増やし、その市民が地域に誇りを持ち輝き、まち全体が輝きを放つことで、「明るい豊かな社会の実現」へと近づいていくと確信しています。個人がいかに青年会議所運動と真摯に向き合い修練できるかにより、組織となった時に社会に大きなインパクトを与えられる最強のプロボノ(公共益のための)集団となります。今、まさに我々の運動の本質を改めて見つめ直す時であると考えます。

Ask not what your country can do for you; ask what you can do for your country.
(国があなたのために何をしてくれるのかを問うのではなく
あなたが国のために何を成すことができるのかを問うて欲しい)
‐第35代アメリカ合衆国大統領JohnF.Kennedy(ジョン・F・ケネディ)‐

■人間力溢れるJAYCEE

 「JC運動論」にもあるように、我々は市民の意識を変革させる団体です。市民の意識を変えるためには、人の心の琴線に触れるアプローチが必要不可欠であり、それは容易なことではありません。その人物の態度、接し方、話し方、多種に亘る人間的要素から相手に伝わり心の琴線に触れることになります。まさに、そこでは「人間力」が問われるのです。青年会議所内においても同じことが言えます。我々は、公益社団法人格を有する団体に属しており、それぞれが労使関係の中で運動を行っているのではありません。青年会議所内の役職はあるにしても、人と人とがぶつかり合う中で切磋琢磨し、日々「人間力」を磨いていく必要があるのです。自分のやりたいことがあるならば、全力で相手に対して自分の想いを伝え、綿密に調査研究を行いプレゼンテーションし、「人間力」を持って相手を説得しなければなりません。この「人間力」は、我々と志を同じくする未来の会員をリクルーティングする時にも重要な要素になります。会員が多ければ多いほど、この地域での運動の波紋を広げやすくなり、それが人間力溢れるJAYCEEであれば、その効果は無限大になります。

 すべての会員が自分の大切な時間を使い、家族や会社の貴重な時間を使いながら運動を行っており、運動に費やすその一瞬に感謝することを忘れてはなりません。そして、自己と他者の「時間軸」をどう捉えるのかを常に意識することで、目に見えない人の心を想う「人間力」を養うことができるのです。「人間力」を高めた我々こそが、地域に対して問題提起し率先して行動し、市民の共感を得ることで意識変革を起こしていくのです。

  • 人は地域を創り、地域は人を育てる。
  • その地域が固有の文化を生み、更にその文化を育てる人を創る。
  • 地域は互いに支え合い、競い合って広がっていく。

■「変化」に対応しなければ「進化」は生まれない

 52年の歴史ある立川青年会議所は、1965年7月に日本では300番目に、東京では2番目の青年会議所として設立されました。この52年という歴史の中には、様々な経済環境、社会環境の変化があり、先輩諸兄がその「変化」に対応しながら「進化」を重ね、現在の立川青年会議所が存在しています。「変化」に対応し「進化」することができなければ我々の存在価値はなくなります。ドックイヤーと呼ばれ、1年後の経済状況も予測することが難しい現代において、世の中の「変化」に対して鈍感な会社は淘汰され、「変化」に対応してきた会社は、社会から必要とされ「進化」を重ねてきました。これからの青年会議所は、今までよりも経済の要素を多く取り入れながら社会貢献を行い「進化」を遂げていく必要があります。一億総活躍社会という考えのもと、地域創生総合戦略を掲げ経済対策を行う政府、行政とどう有機的に結びつき、輝く地域にしていくのかを考えていかなければなりません。政府が考える少子高齢化に挑む、「希望を生み出す強い経済」、「夢を紡ぐ子育て支援」、「安心につながる社会保障」の「新・三本の矢」に対して、我々だからできることを3市と協働し模索し、青年経済人としての問題提起と課題解決策の提言を行う必要があります。我々は、愛する地域が燦然と輝く未来を見据え、青年経済人として、変えてはならないものは「情熱」をもってその伝統を守り、変えなければならないものは時代の変化に対応し「勇気」を持って仕組みや組織を変化させ、判断に迷うときこそ我々の「英知」を持って徹底的に議論し行動に移さなければならないのです。

  • もっとも強いものが生き残るのではなく
  • もっとも賢いものが生き延びるのでもない
  • 唯一生き残るのは、変化できるものである

‐(チャールズ・ダーウィン「進化論」)‐

■共感をつなげるJCブランディング

 青年会議所の理念である「明るい豊かな社会の実現」を達成するためには、1人でも多くの市民に我々の運動への共感を与えることで、社会における存在価値を高め、社会的認知度が向上した状態を創る必要があります。「JC運動論」にもあるように、どれだけ素晴らしい事業を何度行ったとしても、相手に伝わらなければそれは活動であり運動とは言えません。インターネットが普及する中で、多くの情報を時間や場所を問わず瞬時に取得することができる時代となり、情報量が溢れ、情報ですら取捨選択する時代となりました。この時代背景を考えた時、我々の運動を受け手が「自分ごと」として捉えてもらえる情報発信を、継続して行わなければなりません。青年会議所の行う事業は多岐に亘り、すべてを市民に伝えることは難しいことです。しかしながら、誰に何を伝えていくのかを明確にし、ただ行っていることを伝えるのではなく、デザイン性を持ちわかりやすく面白いと思ってもらえる切り口で発信することにより、多くの伝えたいターゲット層の共感を得ることができると考えます。共感をつなげる年間を通したJCブランディング戦略の構築が必要です。

■子供達の未来を見据えて

 子供達の未来を見据えたとき、未来に向かい今を生きる青年である我々には、何ができるのかを考え、子供達が大きな夢を描き続ける社会を築くために、青年会議所だからこそできることを考えなければなりません。私には2人の息子がいます。彼らの世代が、青年になる頃の約15年後の地域は、この国はどうなっているのか。はたして我々にしっかりと想像することができるのでしょうか。また、その未来像を本気で描こうと考えている大人はどれだけいるのでしょうか。我々は未来を常に見据えて物事に対峙し、行動を起こしていかなければならないのです。

 少子高齢化の時代に突入している昨今、未来を見据えた時に考えなければならないことが、子供達と高齢者の関係性です。核家族化が進んでいる中、少子高齢化の問題もあり単身世帯が増えています。多くの経験を積んできた先輩方である高齢者から子供達が学ぶべきことは多くあります。青年世代はその世代間のインターミディアリー(主体的仲介者)としての役割も果たす必要があると感じます。そのためには、3世代という考え方を持ち運動を構築していく必要があります。

地球は次世代からの借り物である

 なぜ未来を見据えて行動をしなければならないのかは、この言葉がすべて伝えてくれています。地球という人類共通の資産を我々の先祖が、何世代にも亘って紡いできたことによって、今日があることを忘れてはなりません。この考えを持つのなら、我々にもその責任があるのは当然です。我々が、先祖から渡されてきた地域というバトンを、より良くした形で次世代につなぐことは我々の「使命」なのです。

■一期一会のこの一瞬を生きる

 青年会議所はすべての会員が40歳までという限られた時間の中で運動を展開しています。青年期という仕事、家庭でも多くの行うべきことがある中、時間を最大限有効に使いながら、時には多くの障壁にぶつかりながら、かけがえのない仲間とともに、我々青年にできることは何であるのか、昼夜を問わず議論に議論を重ね、行動に移しています。もちろん全てがうまくいくわけではありませんので、時になぜこんなにも自分自身に負荷を与えながら、青年会議所運動をしているのだろうかと自問自答するときがあります。私がその時に想うこと、それは大切な人を守るためにこの青年会議所運動を行っているのだという「信念」と「熱意」です。この運動は、必ず自分が大切にしている家族や、この地域で働いている社員やその家族の将来につながっている。斜に構えることなく、素直に実直にそう想う姿勢を持たなければ、市民の共感を得ることなど到底あり得ません。

 青年会議所は、全国各地に人間力溢れた仲間がいる組織だからこそ、長い年月「継続」してきたのです。自分達と共通の理念を持った全国697の青年会議所、約36,000人の仲間が、それぞれの愛する地域のために同じ「時間軸」の中で運動をともに行っているのです。世界に目を向ければそのネットワークは約16万人にも広がります。我々は、どこまでも広い見識を持つための貪欲な姿勢を忘れてはなりません。

 「一期一会」この言葉は千利休が、「茶会に臨む際は、その機会を一生に一度のものと心得て、主客ともに互いに誠意を尽くせ」といった教えからきた言葉です。「一期」は仏教用語で人が生まれてから死ぬまで、「一会」は一つの集まりや会合の意味があります。私は、人との別れの中で2度「一期一会」の機会を逃して後悔をした経験があります。今思い返せばその一瞬を貴重な機会として考えていなかったのです。青年会議所は、「一期一会」の機会の連続であると感じます。我々は会員同士で必ず握手をします。これも、この一瞬をともに過ごすための「一期一会」の貴重な挨拶なのです。

 自分の人生は、人類という「時間軸」の中で見ればほんのひと時なのかもしれません。だからやらないのではなく、だからこそこの一瞬を無駄にすることなく、全力で駆け抜ける必要があるのです。40歳までという限られた時間の中で、自己の利益を考える「自利」の精神のみではなく、他者のことに想いを馳せる「利他」の精神を併せ持ち、「和の心」と「Globalism」が調和した人材による、人と人とが相互に支え合う地域を創造しよう。そして、子供達が大きな夢を描き続け、燦然と輝くこの地域の未来を見据え、2度とない人生だからこそすべての出会いを「一期一会」と捉え、青年らしく行動しよう。

  • 愛する我が地域だからこそ「自利」と「利他」の精神で子供達が大きな夢を描ける地域を創造しよう
  • 先祖から受け継がれてきた唯一無二のこの国だからこそ「和の心」で日本の未来を語り未来を見据えよう
  • 次世代からの借り物である地球だからこそ「Globalism」の考えですべての人とともに生きよう
  • 「一期一会」の人生だからこそ「信念」と「熱意」を持ち青年らしく行動しよう
  • 未来を見据え時代を先駆けるのは我々青年の「使命」である。