理事長所信

公益社団法人立川青年会議所 理事長所信

第51代理事長 第51代理事長 伊藤 大輔

 スローガン最終

高校を卒業した6月、南半球の島国ニュージーランドへ渡りました。宿も決めず英語も出来ないで渡航した19歳の私を待っていたのは、「生きる」ことの厳しさ。

夢に胸を膨らませて渡ったこの国で、仕事を探しながら安宿を渡り歩く生活を送っていた私は、生まれて初めて人種差別を経験しました。陰口や意地悪などの部類とは違い、人として認められないという強烈な試練でした。屈辱に耐えながらも、逃れられない現実の中で、自分を「人」として認めてもらうために「この国でネクタイを締めるまで日本には帰らない」ことを決意しました。

それから9年近く暮らすことになるニュージーランドで、最も学んだことは「違いを受容すること」の必要性です。これは理屈や綺麗事ではなく、生きる為に必要不可欠な要素として「感覚」で学び得たものです。例え、不条理な環境におかれたと感じても現実を直視し、違いを受け入れながら環境を改善するために諦めず努力しなければならない、ということです。

今の自分がここに在るのは、英語が話せない自分に根気よく語りかけてくれた人、生活もろくに出来ていない自分に仕事を与えてくれた会社、少しずつ食材を出し合って同じ釜の飯を食べた仲間、多くの人達に助けられて来たからに他なりません。ニュージーランドで助けてくださった全ての方に直接御礼をすることは未だ叶っていませんが、今、海外から日本に来る若者達に、自分が当時して頂いたことを行っています。いつか彼らが日本を離れる時に、日本に来てよかった、立川に来てよかった、という思いをもって飛び立って欲しいと願っています。

人が生きて行くには、互いに手を差し伸べ合わなければなりません。その為には、生まれや文化、価値観などあらゆる違いを受け入れることができなければ成り立ちません。それまで、自分の価値観に沿わない事は受け入れることが出来なかった、というのが正直なところでした。しかし、様々な国の人と共に生き合うこと。また世界という枠の中で生きて行く為には「違うことがあって当たり前」であることを理解し、受容し合いながら、自分という存在を認めてもらうことが欠かせません。

JCという、生まれも育ちも職業も全く違う輝く人材が集まる組織において、会員それぞれの価値観が違うことは当然であり、それをもって悩む必要はありません。「違う」とは、自分と違うだけであって、それを認め合い、受け入れ合うことによって生まれる新たな可能性こそが、新しい時代を切り拓くパワーになるのです。

四歳で始めた柔道。母親に連れられて行った町道場に掲げられていた言葉があります。

講道館柔道の創始者 加納治五郎氏の教えにある「自他共栄」という言葉です。意味は「相手に対し敬い、感謝することで、信頼し合い、け合う心を育み、自分だけでなく他人と共に栄えある世の中にしよう」というもの。柔道は、相手があって初めて成り立つもので、一人では稽古すらできません。だからこそ、試合での勝ち負けとは別に、自分が稽古をし、強くなれるのは相手が在るお陰であり、常に他者への感謝と敬意の念を持ち、柔の道を歩むことの必要性を説いたものです。

人は一人で生きてゆくことはできません。ましてや、JC運動は一人で出来るものではありません。自他共栄の精神に則り、これまで関わってきた全ての人へ敬意と感謝の念をもち、互いを認め合える社会を創ることこそが、恒久的な世界平和への着実な一歩に繋がります。

創立50周年を迎えた2014年度。子供達を対象とした多くの事業が開催されました。

確固たるメッセージをもち、情熱を傾けて行われた事業は、必ずや子供達一人ひとりの心にインパクトを与えたものと確信しています。時代が変わり、子供達を取り巻く環境は日々変化を続けていますが、これらの事業を通し、子供達へ伝えるべき最も大切なことは、今も変わらないのだと確信しました。

私は、自身の仕事を通して、「教育とは何か」と考える機会があります。自分の結論は、「『自分を愛せる人』づくり」です。自分を愛せない人が、家族を愛し、友人を敬い、地域や自国に誇りをもつことは困難であり、そうした環境下で他者や世界に目を向け、目の前に存在する問題を解決しようという意欲を持つことは出来ないからです。

大変悲しい事実ではありますが、自らの命を自らの手で断ってしまう人の数が、我が国は先進国の中でトップクラスにあります。特に10代から30代の若年層の自死が目立つことは、単に経済的・社会的な側面に理由を求めるだけではなく、この国の教育の在り方を真剣に考え直さなくてはならない根深い問題を内包しています。

昭和22年3月19日、敗戦の影響が色濃く残る戦後間もない日本帝国議会で、日高 第四郎 文部省学校教育局長が、目指すべき日本の教育について答弁をした議事録が残っています。

「例えば、机であるとか黒板やチョークまでも不自由している状態であり、紙も教科書も十分配給できるかわからない状態にあります。今日の日本を復興させるものは、戦争に責任がある我々ではなく、戦争を知らないこれから来る若い人たちの力でなければならないと思っています。私どもとしては教育に唯一の望みをかけておりますので、万難を排して、私どもの後から来る者のために、喜んで踏み台になっていきたいと思っております。」

敗戦により荒廃した当時の日本。今日食べる物にも困っていた時に、教育に予算を掛けろと言うのは、相当な勇気であったことは想像に難くありません。しかし、「後から来る者」=「我々」のために、再び世界と同等に渡り合える日本になることを願い、生涯をかけて現在の義務教育の基礎を作った大人達が居たお陰で、今の我々が在るのです。決して評論家になるのではなく、次の世代へどういう未来を渡したいのかを明確に描き、我々自身が先頭に立って行動を興すことが必要なのです。

JCI Mission : To provide development opportunities that empower young people to createpositive change.

これこそが我々の使命であり責任です。輝く人材育成の機会を創造し、一人でも多くの若者へ挑戦する機会を与え、それをもって社会に積極的な変化をもたらす力とする。社会に役立つ人材育成を、全ての事業において最重要事項として位置付けます。

2005年に30歳で立川JCに入会し、これまで様々な事業に関わってきました。「果たして事業の効果は」「誰に影響を与えることが出来たのか」と出ることの無い答えを探し疲れ果てたこともありました。

JCの事業は、直ぐに評価をされ難いものもあります。目の前で花開くことばかりではありません。でも、今アクションを起こしたことは、必ず未来へ繋がります。魅力に溢れ活力に満ちた地域を未来へ手渡す為には、我々JCが地域における主体的仲介者として、それぞれの活動や個人の力を繋ぎ合わせる牽引者となり、目指すべき未来像を指し示す責任があります。何となくやり過ごしても今は過ぎていきますが、未来は変わりません。だからこそ今、立ちはだかる困難から目を逸らさずに、我々自身が行動を興さなくてはならないのです。失敗も成果の一つ。社会を変えようとする前に、まずは我々自身がどうありたいのかを明確に認識し、目の前の評価に捉われることなく、新たな時代へ進むために変えるべきものは変える勇気と情熱をもって突き進むことが必要です。

50年の伝統として受け継がれてきた、地域のリーダーである立川青年会議所の厳しさを通して、その中から真の楽しさを実感できるメンバーを一人でも増やすことが、新たな時代へ繋がる基礎であり、私自身の最大の責任であると認識しています。

私はJC絶対論者ではありません。JCが全てだとも、完璧だとも思っていません。しかし大きな可能性を秘めた魅力的な組織であると確信しています。

初めて参加した全国大会 姫路大会で、全国から集まった数千人のメンバーが綱領を唱和したのを目の当たりにした時「ここにいる全員が本気になったらとんでもないことが出来るな」と鳥肌が立ったことを覚えています。現実は、まだまだそこには至りませんが、自分の関り方や見方を少し変えてみることで、Jayceeが持つ多くの価値観との出会い、利他の精神に基づいた活動、そしてOBを含めた人との繋がりなど、多くの可能性に続く源に触れることができるはずです。

その意味において、会員拡大を進める上で大切なことは、組織の存続や単に数を増やすことだけを指すのではないという理解です。世の中に一人でも多く、未来を本気で考える仲間をつくることが、誰にとっても有益な、そして幸せを与えられる可能性であり、未来への希望に繋げることになります。ですから、会員拡大は、会員数の拡大による組織の発展と同時に、JC運動を広げることが未来を創る力になるのだという理解に立った人材を育成することが、両輪の対であって初めて成り立つものです。それは委員会・部会の立ち位置にも同じ事が言えます。3市を活動エリアとする広域LOMとして、各々の地域性は保ちつつも、目指す未来像を実現する為に、誰か一人が頑張るのではなく、LOM内外に渡って横断的に機能する組織体制を作り、これまで築いてきたネットワークを委員会の別、地域の別に関係なく、共栄できる組織の土台を造ることが必要です。

JCIが始まって今年で100年。立川JCにおいては昨年50年という時間が経過しました。ある歴代理事長とのお話しで、米軍基地の返還や立川駅舎改良にまつわるエピソードをお聞きする機会がありました。全てが整ってから生まれた私には想像もつかない話しでした。

同時に、私は歴史のほんの先端に立っているにしか過ぎないことを痛感しました。自分は知らないだけであって、汗をかいてきた先人のお陰で、今自分が見ているものがあるのです。ならば、せめてその歴史の先端で、後から来る者の為に必死に生きていたい。そう思うのです。

真の評価とは、自分がそこから去った後に、残った人達がするものです。目の前の損得に捉われることなく、仲間と自分を信じ、情熱をもって突き進む立川JCであるために、次代を創る挑戦者として、次の50年に向けた新たな一歩を踏み出します。

When you go into the new project, believe in it all the way.
Be confidence in your ability to do it right.
And work hard to do the best possible job.

新たな事を始めようと決めたら、とことん信じるんだ。
絶対に上手くできる、と自信を持って。
そして、これ以上できないというだけの最高の仕事をするんだ。

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